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広島地方裁判所 昭和46年(行ウ)39号 判決

広島市楠木町二丁目一番九号

原告

田宮金属工業株式会社

右代表者代表取締役

田宮弐

右訴訟代理人弁護士

加藤幸則

同復代理人弁護士

阿左美信義

広島市加古町九番一号

被告

広島西税務署長 佐伯常夫

被告指定代理人

河村幸登

小島正義

被告指定代理人

岩成久雄

山口平四郎

主文

被告が原告に対し昭和四五年六月三〇日付でした原告の昭和四一年一月一日から同年一二月三一日まで及び同四二年一月一日から同年一二月三一日までの各事業年度の法人税額等の更正及び重加算税の賦課決定を取消す。

被告が原告に対し昭和四五年六月三〇日付でした昭和四一年一二月及び同四二年一二月分の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

主文と同旨

(被告)

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告は被告に対し、原告の昭和四一年一月一日から同年一二月三一日まで及び同四二年一月一日から同年一二月三一日までの各事業年度分(以下、それぞれ昭和四一年度分、昭和四二年度分という。)につき別紙一、二の各確定申告欄記載のとおりの法人税の確定申告をしたところ、被告は原告に対し、昭和四三年一一月三〇日青色申告書提出承認の取消処分をしたうえ、別紙一、二の各更正納税告知欄記載のとおりの各更正処分加算税賦課決定及び源泉所得税の納税告知処分(以下、第一次更正処分という。)をした。被告は、昭和四四年九月一七日右第一次更正処分を取消し、同月一八日青色申告書提出承認の取消処分の取消しをしたが、その後昭和四五年六月三〇日右両事業年度につき別紙一、二の各再更正、納税告知欄記載のとおりの各再更正及び重加算税の賦課決定並びに源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定(以下、本件再更正等という。)をした。

原告は被告に対し、昭和四五年八月一一日本件再更正等について異議申立をしたところ、被告は、同年一一月六日右申立を棄却する旨の決定をした。

そこで原告は国税不服審判所長に対し、同年一二月五日審査請求をしたところ、同審判所長は、昭和四六年八月三一日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

二  しかしながら、被告が昭和四五年六月三〇日にした本件再更正等は、いずれも原告の所得を過大に認定した違法があるから、その取消しを求める。

(被告の認否及びその主張)

一  請求原因第一項は認め、同第二項は争う。

二  被告が原告の本件二事業年度分の所得調査をしたところ、原告会社代表者田宮弐は、原告会社の材料仕入先から取引に付随して別紙三のとおり概ね取引の都度リベートに相当する金銭を受領していた。これは、明らかに、原告会社の実質的経営者がその企業活動によつて得た金銭というべく、原告会社に帰属すべき収入金である。被告は、これを原告会社の利益に計上するとともに、田宮弐に対する賞与と認定して本件再更正等を行なつたものである。

(原告の認否及びその主張)

一  田宮弐が取引先から金銭を受取つたことは認めるが、その趣旨及び額並びにこれが交付を受けた取引先は争う。田宮弐が受取つた金銭は、田宮弐個人に帰属するものであつて、原告会社の収入ではない。本件金銭の授受に関しては、原告会社と取引先との間でリベート契約若しくはリベート通知もなく、したがつて原告会社の帳簿に記帳もしていないし、会社名義の領収証の発行もしていない。そして、本件金銭が原告会社の収入に当らないことは、所得税法基本通達三五-一、法人税法の交際費等に含まれる費用の例示に関する昭和二九年五月一日直法一-八五の通達からも明らかである。

二  本件再更正の更正通知書記載の更正理由には、いずれも本件金銭が原告会社に帰属することの理由が示されていないから、法人税法一三〇条二項により税務署長に義務づけられている更正の理由の附記がなされていないこととなる。

三  本件再更正は、いずれも法人税法一三〇条一項本文により税務署長に義務づけられている帳簿書類の調査をしないでなされた。

すなわち、被告は、本件再更正をするに当つて、原告会社の帳簿書類を調査せず、第一次更正処分の際になされた帳簿を前提としない白色申告に対する調査結果によつたものであるが、右調査をもつて法人税法一三〇条一項本文に規定する帳簿書類を前提とする調査に替えることはできず、本件再更正が同条同項ただし書にいう「その他その計算に誤りがあることが明らかである場合は、その帳簿書類を調査しないでその更正をすることを妨げない。」場合に当るものとしてなされたというのであれば、本件金銭はすでに第一次更正処分に含めて更正されたものと推認することに妥当性があることになるから、昭和四四年九月一七日付再更正により右第一次更正処分を全部取消したことに理由がないこととなり、矛盾を生ずる。

四  本件再更正のうち昭和四一年度分にかかるものは、国税通則法七〇条所定の三年の更正の除斥期間経過後になされたものであつて違法である。なお、被告は、昭和四四年九月一八日原告の青色申告書提出承認の取消処分の取消しをしているが、青色申告を認める限りにおいては、本件は国税通則法七〇条二項四号、六八条に定める場合に当らない。

(被告の反論)

一  本件更正処分等の対象となつた金銭は、比較的高額であり、原告会社の仕入取引に関連して取引の都度、取引の数量に応じて継続的に授受されていること、これを受領した田宮弐は原告会社の代表取締役であるが、原告会社の如く個人企業的色彩の強いいわゆる同族会社では、仕入係、販売係、経理係などのこまかな職務分担もなされておらず、代表取締役自身が営業に関し会社のために金銭を支払いあるいは受領することは日常ありうることからすれば、これは明らかに原告会社に帰属するものというべきである。

二  本件再更正の通知書記載の附記理由には、更正によつて申告所得金額に加算する金額がリベートの除外金であること、その金銭は原告会社か仕入先から受領したリベートであり、原告会社代表者はこれを原告会社の収入金に計上しないで自ら費消していたものであること並びにその受領先及び受領先ごとの金額が示されているから、本件再更正の具体的根拠は明らかであり、適法な理由附記がなされているといえる。

三  本件再更正は被告が第一次更正処分をするに際して行なつた原告会社の帳簿書類に対する調査に基づき水増仕入分と認定したものの一部についてさらに法律的判断を加えた結果、あらためてこれをリベートであると認定したものにすぎず、右認定は当初の帳簿書類の調査結果を当然の前提資料としているのであつて、同一の調査を形式的に繰返す必要はない。

四  田宮弐が昭和四一年度に仕入先から受取り原告会社に帰属すべき本件金銭を、原告会社が益金から除外したことは、国税通則法七〇条二項四号に該当するので、法定申告期限から五年を経過する日までになされた本件再更正は適法である。

青色申告書の提出承認の取消しについては、税務署長に合理的な範囲内における裁量権が与えられているのであつて、法人税法所定の事由があり、また国税通則法七〇条二項四号、六八条一項の規定を適用したからといつて必ずしも青色申告書の提出承認の取消処分をしなければならないものではない。

第三証拠関係

(原告)

甲第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三ないし第一一号証、第一二ないし第一九号証の各一、二、第二〇号証の一ないし五、第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一ないし四、第二四号証の一、二を提出し、証人田宮トシエ、同正木質の各証言、原告代表者尋問の結果を援用し、乙第二ないし第五号証、第七、一二号証の各成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

(被告)

乙第一号証の一、二、第二ないし第五号証、第六号証の一ないし七、第七、八号証、第九号証の一ないし一八、第一〇、一一号証の各一ないし四、第一二号証を提出し、証人井林英人、同常本一三、同上坂賢一、同元森肇、同田宮トシエの各証言、原告代表者尋問の結果を援用し、甲第一号証の三、第三ないし第五号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一  請求原因一の事実及び田宮弐が右両事業年度の間に原告会社の取引先から金銭を受取つたことは当事者間に争いがない。

二  そこでまず、田宮弐が昭和四一、四二年度において原告会社の取引先から受取つた金銭の額について検討するに、田宮弐が右二事業年度内に原告会社の取引先から金銭を受取つたことについては前記のとおり当事者間に争いがないものの、その額についてはこれを確定するに足りる的確な証拠がない。

かえつて、原告代表者尋問の結果によつて真正に成立したものと認める甲第五号証、証人元森肇、同井林英人、同上坂賢一、同田宮トシエの各証言(但し、証人元森肇、同井林英人、同上坂賢一の証言中、後記採用しない部分を除く。)、原告代表者尋問の結果によれば次のような事実が認められ、証人井林英人の証言によつて真正に成立したものと認める乙第一号証の一、二、成立に争いのない乙第二、四号証、証人元森肇、同井林英人、同上坂賢一の証言中次の認定に反する部分は右各証拠に照らして採用できず、他にこの認定を覆えすに足る証拠はない。

被告は、昭和四三年九月頃原告の昭和四一、四二年度分の法人所得につき調査を開始した。田宮弐は、右調査にあたつた井林事務官から、右調査は一般調査である旨知らされただけで、その目的がわからなかつたが、やがて、原告会社の関与税理士である元森肇を通じて、被告が、原告会社に水増仕入による所得の隠蔽があるのではないかとの疑いを持つて調査を開始したこと、その理由として、東邦相互銀行広島支店にある佐久間エイコ名義の八〇〇万円程度の普通預金が原告会社の偽名預金で被告は、これが原告会社の所得隠蔽のためになされているとの見解を有しており、右八〇〇万円程度の増額更正をする意向であることを知るようになつた。田宮弐は、元森とその対策について検討した際、水増仕入についてはその事実がないものの、原告会社の取引先から飲食代として一〇〇万円程度の金員を受取つている事実を元森に打明けた。そこで元森は、被告の指導もあつて、右受領金額に基づいて修正申告をするように田宮弐にすすめ、その方向で対策が講ぜられることになつた。しかしながら、田宮弐は、取引先の従業員等が原告会社を訪れた際等に、商品の入荷、代金の支払の時期に関係なく、金額を格別明示されることもなく金銭を受領しており、その際もとより領収証は発行しておらず、その金額をメモ書したものも残つてなく、また受領したのが一年ないし二年程度以前のことでもあつて、その総額が一〇〇万円程度であつたということのほか個々の具体的金額については記憶がなかつたし、しかも原告会社の取引先の一つである興永鋼材株式会社から金銭を受領したことはなかつた。そこで、元森が第一次更正処分以前である昭和四三年一〇月ころ、原告会社の仕入帳から取引先、取引年月日、取引金額を抜き書きし、前記受領金はなるべく多額である方が被告の心証をよくするとの配慮から、取引高を勘案しながら、原告は、受領金の総額が一五〇万円程度になるような数字を書き出した。そして、田宮弐は、元森から右受取金額に見合う金員を原告会社に用意する必要がある旨指示されて、竹本義勇から八〇万円を借り、これに手持の四万円を加えて、元森の指示により、被告の対応がはつきりするまでの間取敢えず原告会社の仮受金とし、東邦相互銀行広島支店に普通預金した。元森は右のようにして作成された書面を持つて広島西税務署を訪れ、これを井林英人に示し、井林はこれを筆写して乙第一号証の一、二を作成した。ところが、被告は、これを考慮しないで、前記預金高八〇〇万円に相当する金員が水増仕入によつて生じた隠蔽所得であると断定し昭和四三年一一月三〇日これに基づいて第一次更正処分を行つた。しかしながら、被告は、右預金が原告のものでなく第三者のものであることが判明したため、昭和四四年九月一七日右第一次更正処分を取消した。その後被告は、昭和四五年六月三〇日前記田宮弐が前述のとおり書き出した取引先から受領したという金銭につき、乙第一号証の一、二を資料の一つとして、これを原告会社に対するリベートと認定し、本件再更正等をした。なお、原告会社とその取引先との間にはリベート契約は締結されていないしリベート通知の送付もなかつた。

以上のとおり認められる。

右認定事実によつて考えるのに、乙第一号証の一、二の数字の基礎となつた元森及び田宮弐によつて作成された書面は、田宮の不鮮明な記憶に基づき、しかも総額一五〇万円程度になるよう適宜取引毎に割振つて受領額を書き出した点においてすでにその正確性は疑わしい。しかも興永鋼材株式会社からは金銭を受取つたことはなく、また乙第一号証の二をみるに、訴外井上勝商店から昭和四二年七月四日に受領したとされている金銭については、取引金額と同額となつている点が理解しがたく、また、同号証の訴外藤岡商店から昭和四二年一月二〇日受領したとされる金銭については、領収証、メモ書等もなしに一年余以前に受領したものをかかる端数にわたるまで正確に記憶していたということはきわめて不自然であるし、しかもリベート契約の締結ないしリベート通知の送付もない本件においてかかる額の金銭が授受されたということも考えにくい。右のような諸事情を考慮すれば、乙第一号証の一、二は措信するに値しないものといわなければならない。そして田宮弐が原告会社の取引先から受取つた金銭を確定するに足りる証拠は右乙第一号証の一、二のみであり、ただ田宮弐は約一〇〇万円を受取つている旨供述しているのであるが、これも二か年間にわたつてのものであり本件各年度につきそれぞれいくらの額の金銭を受取つているものか不明である。そうすると、結局、本件全証拠によるも田宮弐が原告会社の取引先から受領した金銭については各年度におけるその最低額についてさえ確定しえないこととなり、更正対象たる課税標準は不明となるから、これを前提とした被告の本件再更正等はすべて維持することができないこととなる。

三  そうすると、原告の本件各請求はいずれも理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 浅田登美子 裁判官 上原茂行)

別紙一

昭和41年度分法人税の確定申告、同更正、同再更正及び昭和41年12月分源泉所得税の納税告知

〈省略〉

別紙二

昭和42年度分法人税の確定申告、同更正、同再更正及び昭和42年12月分源泉所得税納税告知

〈省略〉

法人税課税所得金額加算額1,001,416円、同減算額(前期更正分事業税)△63,600円

別紙三

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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